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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)234号 判決 1982年12月27日

東京都大田区大森東五丁目六番一三号

原告

村上一人

右訴訟代理人弁護士

亀井時子

市来八郎

小池通夫

坂井興一

松井繁明

向武男

横尾順子

大川隆司

沢藤統一郎

小林和恵

右亀井訴訟復代理人弁護士

船尾徹

東京都大田区中央七丁目四番一八号

被告

大森税務署長

西川信夫

右訴訟代理人弁護士

楠本安雄

右指定代理人

榎本恒男

佐々木正男

國延哲夫

中川昌泰

小笠原英之

野口雅史

主文

一  被告が原告に対し、昭和四三年三月一四日付でした原告の昭和三九年分所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額一〇六万〇、二八三円を超える部分、同日付でした昭和四〇年分所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち、所得金額八四万二、〇二四円を超える部分をいずれも取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和四三年三月一四日付でした原告の昭和三九年分ないし同四一年分所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和四〇年分、同四一年分については、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、村上製作所の商号でプラスチック成型加工業を営み、いわゆる白色申告をしているものであるが、原告が昭和三九年分ないし同四一年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税についてした各確定申告、これらに対して被告がした各更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)、原告のした異議申立て及び審査請求並びにこれらに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表一の1ないし3記載のとおりである。

2  しかしながら、本件各更正(ただし、昭和四〇年分、同四一年分については、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、後記四の2記載の理由により違法であり、したがって、これを前提としてされた本件各決定(ただし、昭和四〇年分、同四一年分については、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)も違法である。

3  よって、原告は、本件各更正及び本件各決定の取消しを求める。

二  原告の請求原因に対する被告の認否

原告の請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  調査の経緯及び推計の必要性

(一) 本件各更正に係る被告の調査(以下「本件調査」という。)は、昭和三九年分につき旧所得税法(昭和二二年法律第二七号をいう。以下同じ。)第六三条(所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正後のものをいう。以下同じ。)附則第二条)、昭和四〇年分、同四一年分につき所得税法第二三四条各所定の質問検査権の行使として行われたものであるところ、右各法条の規定によれば、右質問検査権は、権限ある税務職員において「所得税に関する調査について必要があるとき」にこれを行使し得る旨定められている。

そして、右の「調査について必要があるとき」とは、具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合をいうのであるところ、確定申告後に行われる所得税に関する調査(いわゆる「事後調査」)については、適正公平な課税目的の実現という質問検査制度の目的からみて、確定申告に係る課税標準又は税額等が過少であると認められる場合に限られず、広く右申告の適否、すなわち、申告の真実性、正確性を調査するために必要がある場合も、右の「調査について必要があるとき」に含まれると解されるのである。

これを本件についてみると、本件係争各年分の所得税調査は、いずれも事後調査であって、原告については、長期間にわたって調査を実施していなかったことと、原告の提出した確定申告書には、収入金額及び必要経費欄には何らの記載がなく、事業専従者控除欄及び所得金額欄が記載されているのみであったことから、申告された所得の真実性、正確性を確認する必要があり、また、原告の営む事業には、原告を含めて五、六人が従事しており、原告は、その営む事業のため、プラスチック成型加工のプレス機械五、六台を有していたが、本件係争各年分の申告所得金額は、いずれも五〇万円前後であって、右各所得金額は右のような原告の事業規模に比して過少ではないかとの疑いがもたれたので、原告を調査対象としたものである。

(二) そこで、被告所部係官は、昭和四二年一一月七日本件調査のため原告宅に赴き、原告に面接して来意を告げ、帳簿書類の提出を求めたところ、原告は「申告のどこが違うのかを言えば、そこを見せる。」などと言い、右係官が調査に協力して帳簿書類を提示するよう重ねて要請したにもかかわらず、これに応じようとはしなかったのである。また、原告は、多忙等を理由に再三にわたり調査予定日の延期を申し入れるなど、故意に調査の引延ばしの挙に出ただけでなく、右係官がかような事情から原告の取引先に対する反面調査を行ったところ、「本人の承諾のない調査は営業妨害だ。」と語気荒く抗議をした。

さらに、右係官が同年一二月一一日に原告宅に調査のため臨場した際にも、原告は「何の権限で調査に来たのか。」とか、「私に無断で調査をしているが、これは営業妨害である。」などと従来の主張を繰り返した上、民商事務局員の服部某を右調査に立ち会わせ、<1>本件調査の法律的根拠、<2>本件調査を行う理由、<3>財産権の侵害に当たる調査の可否、<4>本件調査により原告の営業が妨害されても調査を行うのか、また、右妨害発生の責任をとるのか等の質問をし、これに応答しなければ本件調査に応じない旨申し立て、その後も右の四項目の質問について右係官のみならず、その上司である課長等に対しても執拗に回答を求めたのである。

また、原告の本件調査における態度は、その後の異議申立てに係る調査及び審査請求に係る調査にあっても同様で、原告は、右各調査に対しても非協力的であった。

(三) 以上のように、原告は、被告の調査に協力せず、帳簿書類も提示しなかったので、被告は、やむを得ず、本訴においても実額により把握できなかった一般経費及び雇人費については推計により算出した。

2  本件係争各年分の事業所得

(一) 算定根拠

原告の本件係争各年分の事業所得の算定根拠は、別表二の1ないし3中、被告主張額欄記載のとおりであり、右各年分外注費の内訳は別表三の1ないし3中、被告主張額欄記載のとおりである。

(二) 雇人費

本件係争各年分ごとに、大森税務署管内において、プラスチック成型加工業を営む個人事業者のうち、収支決算において所得を算定していて雇人費を支払っている者(以下「本件同業者」という。)を抽出したうえ、右各年分ごとに、別表四の1ないし3記載のとおり、右同業者の売上金額の合計額から外注費の合計額を控除した残額のうちに雇人費の合計額の占める割合(「雇人費率」という。)を求め、これを実額で把握した原告の本件係争各年分の売上金額から外注費を控除した額に乗じて、雇人費を算出したものである(一円未満四捨五入)。

(三) 家賃

原告は、事業及び住居の用に供している建物(以下「本件建物」という。)を昭和三九年三月一五日から三年契約で賃借していたため、右建物に係る家賃の額(月額三万五、〇〇〇円であったから、昭和三九年分は九・五箇月三三万二、五〇〇円、同四〇、四一年分は四二万円)及び差入保証金(三五万円)のうち契約により本件係争各年中に償却すべき金額(昭和三九年分は一〇箇月九万七、二二二円、同四〇、四一年分は一一万六、六六六円)の合計額(昭和三九年分は四二万九、七二二円、同四〇、四一年分は五三万六、六六六円)を求め、これに次のようにして算出した右建物の床面積のうちに占める事業供用部分の面積の割合六三・七パーセントを乗じて、家賃の額を算出したものである。すなわち、本件建物はいわゆる総二階造りで、その延床面積は約二六坪であり、一階は作業場、二階は六畳が二室と四畳半が一室あって、原告はこの一階の全部と二階の四畳半の部屋を事業の用に供していたから、右建物の事業供用割合は使用床面積の割合により次の算式のとおり計算することが最も合理的であると認められるのである。

〔算式〕

一階部分の事業供用面積 13坪

二階部分の事業供用面積

<省略>

事業供用割合 <省略>

3  本件各更正及び本件各決定の適法性

原告の本件係争年分の事業所得金額は、前記記載のとおり昭和三九年分一五六万六、七〇二円、同四〇年分一六七万〇、三六二円、同四一年分三一四万七、二一八円であって、本件各更正は、いずれも右金額の範囲内であるから適法であり、これを前提としてされた本件各決定も適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び主張

1  被告の主張に対する原告の認否

(一) 被告の主張1の事実のうち、被告所部係官が昭和四二年一二月一一日に原告宅に調査のため臨場したこと、右調査の際原告が民商事務局員服部浩三郎を立ち会わせ、四項目の質問をしたこと、その後も原告が右の四項目の質問について何回も回答を求めたことは認めるが、その余は争う。

(二) 同2の事実のうち、(一)の本件係争各年分の売上金額、売上原価、売上利益、一般経費、支払利息及び専従者控除額並びに外注費の内訳のうち、別表三の1番号1ないし5及び同表の2番号1は認めるが、その余は争う。

(三) 同3は争う。

2  原告の主張

(一) 本件各更正は、次のとおり違憲な法条を適用してされたものであるから無効である。

(1) 本件各更正は、所得税法第二七条、第八九条を適用してされたものであるところ、そもそも不労所得ないし資産所得は勤労所得に比べ担税力が大きいから重課すべきであり、勤労所得と同じく総合所得による累進税率を適用することは、実質的には租税負担公平の原則に反するものである。しかしながら、右各規定は、担税力の小さい勤労所得である事業所得の税率を担税力の大きな不労所得ないし資産所得である利子、配当、不動産、譲渡等の各所得の税率よりも高く定め(なお、利子、配当、有価証券の譲渡所得には特権的減免措置がとられている。)、事業所得者を不当に差別するものであるから、憲法第三〇条、第八四条、第一四条の規定する租税法律主義の要請する負担公平の原則(応能負担の原則)に違反するものである。

(2) 本件各更正は、所得税法第五六条を適用してされたものであるところ、右規定は、事業主及び事業専従家族に対する給与の支払を原則として必要経費として認めず、特例として給与の社会的水準よりはるかに低い事業専従者控除しか認めていない(同法五七条参照)。しかしながら、法人企業においては、法人の代表者やその家族に対して支払う給与は損金と認められており、経済的実質は同じ企業でありながら、法律上の形式の差異によって租税負担が相違するのは、不合理な差別である。また、事業専従家族に対する給与を必要経費として認めないことは、実質的所得を得ている者には課税せずに、所得を得ていない者に課税するものであるから、実質課税の原則にも違反し、不当に財産権を侵害するものである。したがって、右規定は、憲法第三〇条、第八四条、第一四条の規定する租税負担公平の原則に違反するものである。

(3) 本件各更正は、所得税法第八六条、第八三条、第八四条を適用してされたものであるところ、右各規定の定める課税最低限では、統計上においても、生活実感においても、最低生活を支えることはできず、憲法第三〇条、第八四条、第二五条の規定する最低生活保障の原則に違反するものである。

(二) 本件調査及び本件各更正は、原告が大田民主商工会(以下「大田民商」という。)の会員であることを理由とするもので、大田民商の組織破壊をめざした弾圧であり、かつ、会員の思想、信条に対する攻撃であるから、憲法第一四条、第二一条、第二五条、第二九条、第三〇条、第三一条、第八四条に違反するものである。

(三) 本件各更正は、次のとおり違憲、違法な税務調査に基づいてなされたものであるから、違法である。すなわち、申告納税制度によれば、納税者の申告によって納税者の負担する抽象的納税義務が具体化して確定するものであるから、税務当局は、これを第一義的に尊重しなければならないものである。そして、質問検査権の行使は、それ自体として納税者の営業や生活に重大な影響を及ぼすものであるから、所得税法第二三四条の「所得税に関する調査について必要があるとき」という規定にも客観的基準があるべきものである。しかしながら、本件調査は、調査をする必要性(申告が適正でない合理的な疑いがあること等をいい、調査してみなければ納税者の申告内容が正しいか否かわからないといった主観的、恣意的な税務調査は許されない。)を欠き、右必要性を原告に明示せず、任意調査であるから当然必要な原告に対する事前連絡や原告の同意、承諾もないままになされたものであるうえ、反面調査においても、原告に対して直接調査することなくいきなり反面調査を開始し(反面調査の対象者は、直接納税義務を負う者ではなく、法律によって法定資料の提出を義務づけられた者でもないから、反面調査は、納税者に対する調査だけでは課税標準等の内容が把握できないことが明らかとなった場合に限り許されるものである。)、原告に対する事前連絡や原告の同意はもちろん、反面調査の対象者の同意を得ることもなくなされ、その対象においても特定されることなく無限定に調査がされ、原告の営業上多大の損害を被ったものである。このような調査は、納税者の自主申告を尊重する義務に違反し、納税者の財産権を侵害するものであるから、憲法第三〇条、第八四条、第三一条の規定する租税法律主義及び適正手続に違反するものである。

(四) 本件各更正には理由が附記されていなかったところ、理由附記のない更正は憲法に違反するから、本件各更正は、無効又は取り消されるべきである。すなわち、憲法第三〇条、第八四条の規定する租税法律主義及び憲法第三一条の規定する適正手続の要請により、納税者は課税の根拠を明確に知らされずには課税されないという租税原則が導かれるうえ、更正が行政処分である以上、その発動時において適法な理由が存在することを必要とする(したがって、事後に適法な理由が追加されても更正の違法性は治癒されない。)から、更正の理由附記が要請される。そして、更正の理由附記の必要性は、税法上の規定によって創設されたものではないから、白色申告の場合も全く同様なのである。

(五) 被告は、本訴において更正の後に収集した資料をもって、更正時において考慮されていなかった事実を新たに主張しているところ、このような主張をすることは許されない。すなわち、課税処分取消訴訟の訴訟物は、課税標準、つまり多くの所得計算方法の中から特定の計算方法を選択して具体的に確定した額の存否であるから、更正において選択した所得計算と別個の計算方法を採用した場合には、訴訟物が別個となるうえ、行政処分は、処分とその理由によってはじめて明確となるものであるから、右のような主張を許すと、行政処分の特定、同一性、確定に欠け、ひいては更正の瑕疵を後の別個の新たな行政処分によって治癒させ、訴訟手続の遅延を招き、適正手続違反の税務行政を是認する結果となってしまうからである。

(六) 本件各更正は、原告が違法な税務調査に抗議し、調査理由の開示を求めたことをとらえて調査不協力と断定し、所得金額を推計により算出しているところ、原告が税務調査を拒否したことはないのであるから、推計の必要性を欠く違法があるといわなければならない。

(七) 被告の推計方法は、次に述べるように合理性を欠くものである。

(1) 被告は、同業者の個別的事情を全く捨象して本件同業者を抽出しているところ、右同業者ごとの雇人費率を求めてみると、同業者間に非常に甚だしい偏差があるから、その平均値をとってみても、全く合理性はないといわなければならない。すなわち、プラスチック成型加工業を営む同業者といっても、従業員の数、性別、機械の台数、種類、顧客の関係、立地条件等の個別的事情によって事業の内容は異なっている。特に、原告はプラスチック成型加工業のうち圧縮成型加工業であるところ、圧縮成型加工業は、零細な手工業で、機械にはそれぞれ作業員がつき、その操作にはかなりの力が要求されるため、男子でなければ従事することができないのに対し、射出成型加工業は、機械による連続工程により大量生産されるので比較的規模が大きく、ハンドル操作が主であるから女子でも従事することが可能なのである。よって、売上高に対する雇人費の割合は、射出成型加工業に比し圧縮成型加工業の方が高くなるのである。したがって、これら個別的事情を全く捨象して抽出された同業者の雇人費率は、合理性がないといわざるをえない。

(2) 被告は、その抽出した本件同業者の住所氏名を一切明らかにしないうえ、本件係争各年分の同業者が同一業者なのか、抽出が作為的に行われていないか、資料収集の方法が公正、正確であるか、本件同業者の数額が実額に基づくものか、推計に基づくものか等の点が不明であるから、このような推計方法は合理性を欠くといわなければならない。

(八)(1) 本件係争各年分の外注費、雇人費及び貸倒損失は、別表二の1ないし3中、原告主張額欄記載のとおりであり、また、外注費の内訳は別表三の1ないし3中原告主張額欄に、雇人費の内訳は別表五の1ないし3にそれぞれ記載のとおりである。

(2) 本件係争各年分の家賃は別表二の1ないし3中、原告主張額欄記載のとおりであるところ、これは以下に述べる方法により算出したものである。すなわち、原告は、昭和三九年三月に本件建物を三年契約で賃借するに際し、礼金四万五、〇〇〇円、手数料五万五、〇〇〇円、敷金二一万七、五〇〇円(三年の契約期間満了時点に敷金の三〇パーセントが家主に徴収される約定であった。)を支払い、また、その後は家賃として月額五万五、〇〇〇円を支払っていた。ところで、右家賃のうち三万五、〇〇〇円が事業場分の、二万円が住居分の家賃であったところ、住居用に使用していた三部屋のうち一部屋を従業員用の部屋として使用していたので、右住居分の家賃二万円の三分の一である六、六六六円は、事業用の家賃として評価することができる。そうすると、事業用の家賃は月額四万一、六六六円となり、家賃総額の七五・七五パーセントとなる(41,666÷55,000≒0,7575)。以上により、本件係争各年分の家賃の額を次の算式により算出した。

〔算式〕

昭和39年分(10箇月分)

家賃 礼金 手数料 敷金 事業供用割合

<省略>

≒416,660+(27,777+18,124)×0.7575

≒416,660+34,770

=451,430 (円)

昭和40、41年分

家賃 礼金 手数料 敷金 事業供用割合

<省略>

≒499,992+(33,333+21,750)×0.7575

≒499,992+41,725

=541,7171 (円)

五  原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張(一)について

日本国憲法の下では、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者の範囲、課税標準、徴税の手続はすべて法律に基づいて定めなければならないと同時に、法律に基づいて定めるところに委ねられており、原告主張の各規定は、立法府の裁量に基づいて制定されたものであって、いずれも合憲である。

2  原告の主張(二)について

被告は、前記三の1(一)で述べた調査の必要性があったため、原告の税務調査をしたものであって、原告が大田民商の会員であるかどうかは右調査とは全く関係がなく、いわんや大田民商の組織破壊を意図してなした弾圧などと批難されるいわれはない。

3  原告の主張(三)について

前記三の1(一)記載のとおり、本件各更正に係る被告の調査は、旧所得税法第六三条、所得税法第二三四条各所定の「調査について必要があるとき」に該当したから質問検査権の行使としてなされたものであるところ、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量選択に委ねられているものと解されるのである。したがって、質問検査を実施する日時や場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではないのである。また、質問検査権は、その行使に対する不答弁等があった場合について罰則を設けることによって間接的にその履行を強制しているものであり、原告のいう意味の任意調査ではないから、質問検査権の行使に際して納税者の同意、承諾を要しないことは当然である。

4  原告の主張(四)について

更正の理由附記を要件とするか否かといった問題は、原則として立法府の裁量に委ねられていると解すべきであるところ、所得税法上白色申告に係る更正には理由附記が要件とされていないから、これに従ってなされた本件各更正はもとより合憲であり、適法である。

5  原告の主張(五)について

課税処分は客観的、抽象的にはすでに成立している租税債務を確認し、それを具体的に確定させるための一方法にすぎず、かつ、税法は、原告のような白色申告を更正する場合に一定の手続をとるべき旨の手続的な規制を設けていないから、課税庁の認定、計算した課税標準等又は税額等が税法に違反しているかどうかは、専ら課税庁が認定した課税標準等が実際の課税標準等を超えているかどうかにあり、それ以外に課税処分を違法ならしめる法律要件は存在しないのである。したがって、課税標準又は税額等の認定根拠は、単なる攻撃防禦方法にすぎないと解される。また、課税処分は、その理由ごとに処分の個数(同一性)を異にする性質のものではない。してみれば、課税処分が適法であることについて、課税庁は自己の認定、計算した課税標準又は税額等が実際の課税標準等又は正当な税額等を超えていないことを主張、立証すれば足り、民事訴訟法第一三九条に規定する時機に遅れた攻撃防禦方法その他の法律上の要請に反しない限り、原則として口頭弁論終結時まで適宜収集した資料に基づいて主張、立証することができると解すべきものである。

6  原告の主張(七)について

(一) 本件同業者の主要機械の台数、従業員数(本人及び家族を含む。いずれも本件係争各年分の一二月三一日現在。)及び右同業者のうち射出成型加工業者は、次のとおりである。

<省略>

(二) しかしながら、本件係争各年分当時における射出成型の機械の精度は、今日のそれとは大いに異なり、機械の操作や製品の取りはずしのために常時従業員を必要としていたものである。そして、当時は、射出成型工たると圧縮成型工たると雇人に対する給与の額については相違が認められないから、被告が、選定基準に合致する同業者を射出成型、圧縮成型の別なく悉皆的に抽出したことについて何ら不合理な点はないのである。また、本件同業者について射出成型及び圧縮成型のそれぞれの雇人費率をみても特に射出成型のそれが圧縮成型を下回ることもなく、さらに雇人費と相関関係にある外注費を雇人費に含めて売上金額に対する割合を見てみれば、射出成型と圧縮成型のそれは全く近似(昭和四〇年分及び同四一年分については射出成型が圧縮成型を上回っている。)していることが明らかであり、この点から見ても被告の主張する同業者率は妥当かつ合理的であり、違法な点はないのである。

7  原告の主張(八)について

(一) 原告の主張からは真実の所得金額の算定が不可能であるから、右主張は主張自体失当である。

すなわち、事業所得は、総収入金額と必要経費を一体としてみる収入対応ないし期間対応の計算原理によって所得金額を計算するものであるところ、収入と必要経費とは一般的には、相互に連鎖的に関連しており、これは事業所得を生ずべき事業の一つである製造業にあっても、収入と必要経費である雇人費及び外注費とは相互に関連するというべく、このことは雇人費及び外注費とも製造原価を構成するところからしても明らかである。

ところで、被告は、原告が被告の調査に応じなかったので原告の取引先調査により、事実を把握し得た限度での売上金額を基本として同業者の一般的平均率により雇人費等の額を推計する方法をもって原告の真実の所得金額に可及的に近接すると認められる数額を主張、立証しているのであるところ、原告は必要経費の一部について被告の認定を上回る主張をするのであるから、右経費に対応する自己の総収入金額及びその余の必要経費の数額も明らかにしない限り、真実の所得金額の算定は不可能というべきである。

したがって、特別経費のみをとり上げこれを根拠とする原告の主張は、それ自体失当である。

(二) 原告の提出した特別経費に係る書証の信ぴょう性について

原告は、当初から一貫して税務調査を拒否するという不誠実な態度に終始したうえ、原処分時に提出可能な帳簿書類の一部を本件係争各年分の取引が行われてから一〇年以上、本件訴訟が提起されてからでも七年が経過してから突如として提出したのであるが、これは被告をして原告の取引先に対し右帳簿書類の真否の確認を不能ならしめることを策したものにほかならないし、また、原告の提出した右書証にはそれ自体後記(三)以下で述べるごとく不自然かつ不合理な点が多々あるなどの事実を併せ考えると、右書証は、信ぴょう性に欠け、その証拠力は全くないというべきであるから、これによっては原告の特別経費の額を算定することはできないというべきである。

(三) 外注費について

(1) 原告が提出した証拠は、請求書とそれに対応する領収書の双方がそろっていないものが多いところ、請求書に表示される金額は未回収代金部分の金額が重複して記載されることがあるし、また、値引き、返品、相殺等の事情により、請求金額より減額して決済が行われることがあるから、請求書の金額が必ずしも実際に支払われた経費とはならないのである。したがって、経費の額の確認に当たっては、請求書と領収書の双方を照合することによって行わなければならないものであり、原告が提出している断片的資料からは、原告の外注費の額を算定することができないというべく、かつ、その証拠力もないといわなければならない。

(2) また、原告の外注費に係る主張のうち発行済み小切手又は約束手形の備忘記入欄(以下「小切手等のミミ」という。)のみを証拠としているものが少なからず存在するが、右小切手等のミミは原告作成の単なるメモ書きにすぎないのであって、通常行われるように原告が自己振出の小切手を裏書して自己の当座預金から現金を引き出すこともあるのであり、かつ、小切手の発行の有無又は前後において自由に作成し得るものであるから、これのみをもってしては何らの証拠力もないというべきである。

(3) 原告が支払ったと主張する金額のうち次に掲げる金額は、いずれも減価償却資産(工具)の取得価額あるいは右資産の修繕費に該当するものであって、外注費とは認められないものである。

<1> 昭和三九年分

有限会社一政製作所への支払 二一九、五〇〇円

有田SSの支払 一二八、〇〇〇円

<2> 昭和四〇年分

有限会社一政製作所への支払 四二八、〇〇〇円

有限会社三協プラスチック工 一一〇、〇〇〇円

業所への支払

株式会社木村製作所への支払 二五五、〇〇〇円

<3> 昭和四一年分

有限会社一政製作所への支払 二八五、〇〇〇円

有限会社山田製作所への支払 六〇八、〇〇〇円

東蒲金型製作所への支払 八〇、〇〇〇円

すなわち、右支払は金型(工具)の購入代金若しくは改造費(それぞれ右資産の取得価額を構成する。)又は右資産に係る修繕費であるところ、右金型の取得費等は減価償却費として被告主張に係る一般経費に包含されるものであって、原告の主張するようにこれを外注費として計上すると、これが必要経費として二重に計上されることとなる。

したがって、右各取引先に対する支払代金を外注費であるとする原告の主張は失当である。

なお、仮に原告が得意先のために金型の製作を依頼し、その代金を立て替えて支払ったというのであれば、当該支払金は「立替金」にすぎないし、また、右金型代に相当する金額を先に得意先から受け取ってその金額を金型製造業者に支払ったというのであれば、得意先からの「預り金」をもってその代金を支払ったにすぎないものであるから、いずれにしても、金型製造業者に支払った金型代には経費性はないというべきである。

(四) 雇人費について

(1) 一般に、従業員の勤務日数及び勤務時間(遅刻、早退、残業時間等)を管理するためには日々の記録が不可欠であるところ、原告は、単に一月に一回まとめてメモ書した雇人費に関する大学ノート(以下「本件ノート」という。)を提出しているのみであり、右ノートの記載が本件係争各年分当時にされたものであるかどうか不明であるのみならず、原告が臨時従業員に対する支払賃金と主張するものについては、臨時的かつ少額な金額であるにもかかわらず領収書を提出しているのに、常備の使用人に係る雇人費の支払についてはこれを証する記録も提出しないのであるから、雇人費の支払額を証するに足りるものではないというべきである。

(2) 本件ノートの記載によれば、原告の従業員である向田守についての昇降給の状況が極めて不自然である。

(3) 原告は、向田守に対して職責手当を支給していた(本件ノート)旨主張するが、同人は、給料の内訳について熟知していたと認められるにもかかわらず、右手当については支給を受けていた記憶はない旨証言しているから、右手当に相当する金員の支給はなかったとみるのが相当である。

(4) 原告は、従業員に対する毎月の給料は、総支給額から源泉所得税、貯金及び保険料等を控除して右控除後の金額を支給していた(本件ノート)旨主張するが、原告は、右の源泉所得税を国に納付していないし、向田守は、給料から貯金、社会保険料等を天引きされていた記憶はない旨証言している。したがって、原告が、原告のいう総支給額から天引き各項目金額を控除したものと認めることはできないから、原告の主張する天引き後の差引支給額を総支給額として支給していたにすぎないとみるのが相当である。

(5) 原告は、向田守ほか数名の従業員に対し賞与を支給していた(本件ノート及び本件ノート等を基にして作成した給料明細表(以下「本件明細表」という。))旨主張するが、本件ノートに支給した旨の記載がなかったり、本件ノート自体が欠落していたりして計上根拠が全く不明な場合があるばかりか、本件ノートと本件明細表の記載が符合しなかったり、既に退職している元従業員に対しても賞与を支払った旨の記載が本件明細表にあるなど全く信ぴょう性に欠けるほか、そもそも原告は、従業員に対する賃金等の支給額を節約するため時給制を採用していたことなどからすると、賞与の支給があったとする原告の主張は失当というべきである。

(6) 原告は、臨時従業員(アルバイト、内職)に対して賃金を支払っていた(領収書とみられる書面)旨主張するが、右書面も<1>これがいかなる対価の支払であるかが不明であり、雇人費となるべき支払か、それ以外の支払であるかさえわからないものであり、しかも、<2>受取人の住所の記載のないものが多く、受取人の姓のみが記載されたものが見受けられたり、<3>日付の記載がないものや、その記載があっても不十分なもの(年がなく月日のみのもの等)あるいは日付を改ざんした形跡がうかがわれるものがあること等多くの問題があるうえ、原告自身一部の者を除いては右臨時従業員についての当時の住所すら分からず、名前も不明というのであるから、本件係争各年分中に原告が臨時従業員を雇傭していたとは到底認めることはできない。

(7) 原告は、本件係争各年分の熊谷重雄に係る年間の賃金を推計するに当たって、右のいずれの年においても一二月分に係る支給賃金を推計計算の基礎となる月数に含めている(本件明細表)ところ、同人は一二月に退職しているのである(何年の一二月なのかは必ずしも判然としない。)。

(8) 原告は、社内外注と称して職人に対し昭和四一年に総額一〇〇万五、四八七円を支払った(本件明細表)旨主張し、月平均二人の職人各人に月額約四万円の支払をした旨供述している。しかしながら、原告の供述によれば、右社内外注職人は主として成型の仕事に従事させ、右職人らの能力は従業員の平均より劣る上に、専属ではなく不定期に就業していたことがうかがわれるにもかかわらず、その賃金が月平均四万円であるというのは、原告の他の従業員の最高支給額をも上回り不自然である。また、原告は右職人らの氏名等の記憶は全くないと供述しているうえ、右供述によれば、昭和四一年当時成型加工に従事した者は原告を含めて六人もおり、これに対して成型機械は六台であって、右六人は残業も極めて多時間であったというのであるから、社内外注職人の二人はいったいどのような仕事をしていたのか疑問であり、その存在すら極めて疑わしいというべきである。

(五) 家賃について

(1) 本件建物の真実の賃貸借の始期は昭和三九年三月であるにもかかわらず、原告が証拠として提出している賃貸借契約書には、その作成年月及び賃貸借の始期が同三八年三月となっているから、右契約は、本件建物の賃貸借に際して実際に作成されたものかどうか疑わしく、これに記載された数額についても真正に契約内容を示すものかどうか極めて疑わしい。

(2) 仮に右契約書に記載されている金額が事実としても、原告の主張する家賃の計算は次に述べるとおり失当である。すなわち、右契約書によれば、まず、家賃の額は原告が主張するように一階部分と二階部分に区別して定められていないし、次に、原告が支払った敷金についてもその一部について当初の契約期間が満了し、さらに契約を更新するときに初めて返還を請求し得なくなる部分が生ずるのであって、契約期間満了前においては、右敷金は賃貸人に対する単なる預け金(債権)の性質を有する支出にすぎないものである。さらに、仮に本件建物の賃貸に際して不動産業者に支払った手数料があったとすれば、その支払手数料は全額支払った日の属する年分の必要経費に算入されるべきものである。

六  原告の再反論

1  被告の反論7(三)(3)について

プラスチック成型加工業者の取引の実情は、次のとおりである。すなわち、注文主は、必要な金型の製造、修理、改造をも含めて原告にプラスチック成型加工を発注するから、原告が金型の製造、修理、改造を外注先に発注するが、その代金は一定のマージンを加えて注文主に請求し、受領した金員で支払っている。そして、原告は、金型を注文主から借り受けてプラスチック成型加工を行い、取引が終了すれば注文主の指示で廃棄するか、注文主に返還するのである。したがって、右金型は、注文主の所有に属するもので、減価償却資産にあたらないのはもちろんのこと、外注先に対する金型代金の支払は、立替金にも預り金による支払にもあたらないものである。

2  被告の反論7(四)(8)について

原告の昭和四一年分における事業活動は、それ以前に比し一段と活発になったので、必要の都度社内外注を依頼していたものであり、支払は出来高払であった。また、社内外注職人が従事していた作業は、「成型」に限らず「パフ」、「仕上」等必要な状況に応じて従事してもらっていた。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第二三四号証、第二三五、第二三六号証の各一、二、第二三七号証の一ないし一四、第二三八号証の一ないし一〇、第二三九号証の一ないし一二、第二四〇号証の一ないし一〇、第二四一号証の一ないし一一、第二四二号証の一ないし八、第二四三号証の一ないし九、第二四四号証の一ないし一六、第二四五号証の一ないし一三、第二四六号証の一ないし四、第二四七号証の一ないし一三、第二四八号証の一ないし二三、第二四九号証の一ないし五、第二五〇ないし第二五七号証、第二五八号証の一、二、第二五九ないし第二六二号証、第二六三号証の一ないし三六、第二六四ないし第二六六号証、第二六七号証の一ないし四、第二六八ないし第二七二号証、第二七三号証の一ないし三、第二七四号証の一ないし六、第二七五ないし第二七九号証、第二八〇号証の一ないし六、第二八一号証の一ないし三、第二八二号証の一、二、第二八三ないし第三〇二号証、第三〇三号証の一ないし三、第三〇四ないし第三〇七号証の各一、二、第三〇八ないし第三一〇号証、第三一一号証の一、二及び第三一二ないし第三一五号証を提出。

2  証人服部浩三郎、同源勇、同村山勝太郎、同伊藤忠(第一回)、同萩谷修一、同氏家定次、同向田守の各証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用。

3  乙(イ)第一号証の一、二、第二六号証、第三一号証の一、二、第三二号証及び第三四号証の成立(第三一号証の一、二、第三二号証については原本の存在を含む。)を認める。その余の乙(イ)号各証の成立(第三五号証の一、二については原本の存在を含む。)は知らない。乙(ロ)第一号証の一、二及び第二六号証の成立を認める。その余の乙(ロ)号各証の成立は知らない。乙(ハ)第一号証の一、二及び第二六号証の成立を認める。その余の乙(ハ)号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙(イ)第一号証の一、二、第二ないし第一一号証、第一八、第一九号証、第二一ないし第二三号証、第二五ないし第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第三四号証、第三五号証の一、二及び第三六号証、乙(ロ)第一号証の一、二、第二ないし第一三号証、第二一号証及び第二六号証並びに乙(ハ)第一号証の一、二、第二ないし第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一七号証、第二〇、第二一号証、第二四号証及び第二六号証を提出。

2  証人源勇、同村山勝太郎、同伊藤忠(第一、二回)、同萩谷修一、同石川泰昭、同岡崎栄、同前崎善朗、同一戸潔、同庄子実、同杉本武及び同辰尾明吉の各証言を援用。

3  甲第一号証、第四号証、第六、第七号証、第一〇ないし第一二号証、第一五、第一六号証、第二四、第二五号証、第三一ないし第三三号証、第四三、第四四号証、第四六号証、第五〇ないし第五六号証、第五八、第五九号証、第六三、第六四号証、第六六号証、第八一ないし第八三号証、第八五、第八六号証、第九六号証、第九九ないし第一〇二号証、第一〇四号証、第一〇六ないし第一一八号証、第一四〇ないし第一四九号証、第一五一ないし第一五六号証、第一七九号証、第一八二ないし第二〇〇号証、第二一七号証、第二二三号証、第二二五号証、第二二七号証、第二二九号証、第二三七号証の二、五、九、一〇、一二、一四、第二三八号証の三、六ないし九、第二三九号証の二、三、五、九ないし一一、第二四〇号証の三、四、八、九、第二四一号証の二ないし五、八ないし一〇、第二四二号証の二ないし四、六ないし八、第二四三号証の四、五、七、第二四四号証の六、八、一〇、一六、第二四五号証の七、八、一〇ないし一三、第二四六号証の二、第二四七号証の六、第二四八号証の二、四、七、一三、一八、二〇、二二、二三、第二四九号証の二及び第二五一ないし第二五三号証の成立(第一号証、第四号証、第六、第七号証については原本の存在を含む。)を認める。第五号証が昭和四三年三月頃大森税務署玄関口に掲示された国税庁長官談話のポスターの写真であることを認める。その余の甲号各証の成立(第二号証、第二五九、第二六〇号証については原本の存在を含む。)は知らない。

理由

一  原告の請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。そこで、本件各更正に違法の点があるかどうかについて判断する。

二  原告は、本件各更正は違憲な法条を適用してされたものであるから無効である旨主張する。

1  所得税法第二七条、第八三条(その後昭和四二年法律第二〇号による改正により第八三条は第八九条に繰り下げられた。)(昭和三九年分については、旧所得税法が適用となるが、改正後の第二七条に対応するのは第九条第一項第四号であり、第八三条に対応するのは第一三条である。)について

原告は、右各規定が憲法第三〇条、第八四条、第一四条の規定する租税負担公平の原則に反する旨主張する。しかしながら、所得税法第二七条及び旧所得税法第九条第一項第四号は、事業所得の意義ないしは範囲を定めた規定であり、所得税法第八三条及び旧所得税法第一三条も単に各種所得の金額を合計して算出される総所得金額に適用される税率を定めた規定で、事業所得の税率を他の所得に比し高く定めて事業所得者を差別するものではない。また、事業所得と他の資産所得の各金額を入算して総所得金額とし、これに所定の税率を乗じて税額を算出することや、利子所得、配当所得等には優遇措置が存在することの合理性についてであるが、経済政策の一環をなす租税政策について認められる合目的的裁量の範囲内と認められる限りにおいて、違憲の問題を生ずる余地はなく、右裁量は、立法府の政策的裁量としての性格上、一見して明白に裁量権の濫用ないし裁量の範囲の逸脱と認められる場合に限って違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。そうして、租税については、特に公平負担の原則が重視されるべきことはもちろんではあるが、前記課税制度が一見して明白に政策的裁量の濫用ないし裁量の範囲の逸脱と認められるとは解されないから、原告の主張は採用できない。

2  所得税法第五六条(昭和三九年分については、旧所得税法が適用となるが、改正後の第五六条に対応するのは第一一条の二第一項である。)について

原告は、右各規定が事業主等に対する給与の支払を原則として必要経費として認めないことをもって法人企業に比し不合理な差別であり、かつ、実質課税の原則にも反するから、憲法第三〇条、第八四条、第一四条の規定する租税負担公平の原則に反する旨主張するが、右各規定が前述したような意味で一見して明白に裁量権の濫用ないし裁量の範囲の逸脱とは認められないから、右主張は失当である。

3  所得税法第八〇条、第七七条、第七八条(その後昭和四二年法律第二〇号による改正により、それぞれ第八六条、第八三条、第八四条に繰り下げられた。)(昭和三九年分については、旧所得税法が適用となるが、改正後の第八〇条、第七七条、第七八条に対応するのは、それぞれ第一二条、第一一条の九、同条の一〇である。)について

原告は、本件各更正が右各規定を適用してされたものであるところ、右各規定の定める課税最低限では最低生活を営むことができないから、憲法第三〇条、第八四条、第二五条に違反する旨主張するが、右各規定により原告の最低生活が侵害される旨の具体的主張を欠くばかりか、後記認定による原告の事業所得が憲法上保障されている最低限度の生活を維持するに足りる生活費を上回っていることは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく原告の右主張は失当である。

三  原告は、本件各更正に際して行われた税務調査及び本件各更正は原告が大田民商の会員であるという理由で調査対象に選定し、大田民商の組織破壊をめざした弾圧であり、かつ、会員の思想、信条に対する攻撃である旨主張するが、本件各更正に至った経緯は後記認定のとおりであって、本件の全証拠を検討しても原告の右主張を認めることはできない。

四  原告は、本件各更正が違憲、違法な税務調査に基づいてなされたものであるから違法である旨主張する。

ところで、所得税法第二三四条(昭和三九年分については旧所得税法第六三条)所定の質問検査権については、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量、選択に委ねられているものと解すべく、実施の日時、場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知のごときも質問検査を行ううえで法律上一律の要件とされているものではない。また、右の質問検査の必要があるとは、調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申告の体裁、内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的な事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合をいい、過少申告の疑いが存在する場合のみならず、そのような疑いが当初から明らかでない場合でも、申告の真実性、正確性を確かめる必要がある場合も含まれると解するのが相当である。

そこで、本件各更正に至った調査の経緯について検討するに、被告所部係官が昭和四二年一二月一一日に原告宅に調査のために臨場したこと、右調査の際原告が民商事務局員の服部浩三郎を立ち会わせ、四項目の質問をしたこと、その後も右の四項目の質問について何回も回答を求めたことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いがない事実と成立に争いのない乙(イ)第一号証の一、二、乙(ロ)第一号証の一、二、乙(ハ)第一号証の一、二、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第三号証、第二五七号証、証人源勇、同村山勝太郎、同氏家定次、同服部浩三郎の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回、ただし後記採用しない部分を除く。)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、プラスチック成型加工業を営んでおり、右事業に本人を含めて五、六人が従事し、かつ、プレス機械を五、六台有していたが、本件係争各年分の申告所得金額が五〇万円前後であったため、右申告所得金額はその事業規模に比較して過少ではないかとの疑いがもたれたうえ、原告の提出した確定申告書には収入金額及び必要経費の金額の記載がなく、かつ、原告については長期間にわたって調査を実施していなかったことから、被告は、申告所得金額の適否について調査する必要があると認めた。

2  そこで、被告所部係官源勇及び同一戸潔は、右調査のため昭和四二年一一月初旬原告方に臨店し(事前連絡はしなかった。)、原告に対し、申告所得金額が正しいかどうかを確認するために、昭和四一年分及び必要があれば同三九、四〇年分も調査する旨告げ、帳簿書類の提示を要請したが、原告は、「午前中に納品しなければならない仕事がある。」、「正確な申告をしているのだから、どこが違うのかを言えばそこを見せる。」、「一一月一五日以降にして欲しい。」などと述べて右調査に応じなかった。そこで、同係官らは、右調査の状況から判断して何か手がかりがあった方が調査が円滑に行われるものと判断し、右調査の二、三日後から原告の取引先に対し反面調査を行った(原告の了解は得ていないが、取引先の承諾は得た。)。ところが、原告は、同月一五日「本日は急用ができたから調査は二〇日以降にして欲しい。」と調査の延期を申したうえ、「本人の承諾がないのに反面調査をするのは営業妨害だ。」などと語気荒く抗議した。その後、被告所部係官村山勝太郎と一戸係官が同年一二月八日臨店した(事前連絡はしなかった。)が、「家内を病院へ連れて行くところだから具合が悪い。」と原告が述べたので、この日も調査はできなかった。そこで、源係官と浦辺係官は、原告と打ち合わせのうえ同月一一日原告方に臨店し(臨店した事実は、前記のとおり当事者間に争いがない。)、調査への協力を要請したところ、原告は、「本人の承諾なく反面調査をするのは営業妨害だ。」などと抗議し、途中から民商事務局員服部浩三郎を右調査に立ち会わせ、<1>本件調査の法律的根拠、<2>本件調査の必要性、理由、<3>財産権を侵害する調査の可否、<4>営業妨害が生じても調査ができるのか、営業妨害の具体的事実をあげれば責任をとるのか、等の質問をし(右服部を調査に立ち会わせ、右質問をしたことは当事者間に争いがない。)、回答しなければ資料を見せない旨申し立てた。同係官らは、一応上司に報告してから回答する旨答えて帰署したが、調査は所得税法に基づいて適法に行っているのであり、財産権の侵害などを意図しているものではないから、積極的に回答する必要はない旨の指示を受けたため、回答はしなかった。原告は、その後も執拗に右の質問に対する回答を求め(回答を求めたことは当事者間に争いがない。)、かつ、反面調査をやめるよう電話等で何回も抗議した。なお、右質問については、源係官の上司である氏家課長が昭和四三年の一月か二月頃電話で右趣旨を回答した。

3  そこで、被告は、反面調査により実額の把握に努めたが、実額で把握できなかった昭和四一年分の一部経費並びに同三九、四〇年分の売上金額及び経費につき、やむを得ず推計によって算出し、本件各更正を行った。

以上の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は採用できない。

右認定の事実によれば、本件調査には首肯するに足りる調査の必要性があり、かつ、本件調査に際し被告所部係官は調査理由を告げていたというべきである。また、原告に対する調査及び反面調査において、原告に対して事前連絡をしたり、原告の同意、承諾を求めることは前記のとおり必ずしも必要ではないと解されるし、反面調査の時期その他本件調査の方法が社会通念上相当な限度を超えていたと認めることはできない。したがって、本件調査の違憲、違法をいう原告の右主張は失当である。

五  原告は、本件各更正に理由が附記されていなかったから憲法に違反する旨主張する。

しかしながら、原告は白色申告であるところ、法律上白色申告に対して更正する場合にはその更正通知書に理由附記が要求されていないのみならず、憲法第三〇条、第八四条、第三一条からただちに更正の理由附記が要求されていると解することもできないし、処分時に適法な理由の存在が必要だからといってただちに理由附記のない更正が違憲、違法となると解することもできないといわなければならない。よって、原告の右主張も失当である。

六  原告は、更正の後に収集した資料をもって、更正時において考慮されていなかった事実を新たに主張することは許されない旨主張する。

しかしながら、課税処分取消訴訟の審判対象(訴訟物)は、当該課税処分の取消原因としての違法性の存否であると解されるから、課税標準及び税額に関していえば、審理の対象はそれが客観的に存在するか否かであって、原処分の当否そのものではない。したがって、被告が原処分後に収集した資料をもって、原処分時において考慮されていなかった事実を新たに主張することも、時機に遅れた攻撃防禦方法等にあたらない限り、原則として許されるものである。よって、原告の右主張も失当である。

七  原告は、原告が税務調査を拒否したことはないから、本件各更正は推計の必要性を欠く違法がある旨主張する。

しかしながら、前記四で認定した事実によれば、本件各更正当時、原告の調査非協力により帳簿書類等を確認することができなかったため、原告の本件係争各年分の事業所得を実額により算出することが不可能であったというべきであるから、被告が推計によって事業所得の金額を算出して本件各更正を行ったことは何ら違法ではない。よって、この点に関する原告の主張も失当である。

八  そこで、原告の事業所得について検討する。

1  原告の本件係争各年分の売上金額、売上利益、一般経費、支払利息及び専従者控除額が別表二の1ないし3記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  被告は、原告が収入金額については被告の主張を認めたうえ、一部の特別経費のみについて被告の認定を上回る実額主張をするのは、収入対応ないし期間対応の計算原理に反し、主張自体失当である旨主張する。

しかしながら、被告は、取引先調査により把握し得た限度での売上金額にすぎないというものの、右金額を実額で主張している以上、原告が実額で主張する経費がその事業活動に必要な費用と認められる限り、経費として認めざるを得ないというべきであって、原告としては、その主張する経費実額と売上金額との間の対応関係まで立証しなければならない責任を負うものではない。被告としては、もし売上金額実額の捕捉が不十分であると考えるならば、いわゆる逆推計をする途も残されているのであり、このような主張の変更も許されると解すべきである。

したがって、被告の右主張は失当である。

3  また、被告は、原告が本件係争各年分の取引が行われてから一〇年以上も経過してから突如として提出した帳簿書類等は全く信ぴょう性に欠ける旨主張する。

しかしながら、原告の右帳簿書類等の提出が適切な時期にされたとはいえないこともちろんであるが、これをもってただちに時機に遅れたとか、信義則に反するとまで断定はできないし、また、原告が被告の右帳簿書類等に対する真否の確認を妨害する意図を有していたとまで認めるに足りる証拠もないから、右帳簿書類等に対する個々的検討を経ることなく、ただちに信ぴょう性に欠けるとまではいえない。

4  外注費について

(一)  外注費のうち別表三の1番号1ないし5及び同表の2番号1については、当事者間に争いがない。

(二)  別表六の1ないし3中支払欄に×印をつけたものは、請求書や領収書等による何らの裏付けもなく、ただ小切手等のミミのみが証拠として提出されているところ、そもそも小切手等のミミは記入するもしないも任意で単なるメモ書にすぎないものであるから、その支払の有無や金額の正確性などに疑問があり、小切手等のミミのみをもっては外注費算出の資料とすることはできないといわなければならない。

(三)  別表六の1ないし3中請求、納品又は支払欄に△印をつけたものについて以下検討する。

(1) 甲第九〇号証(昭和三九年二月四日付の領収証)は、作成日付からして前年分(昭和三八年分)の外注費に係る支払である疑いが濃いから、外注費算出の資料とすることはできない。

(2) 甲第一二九ないし第一三一号証は、いずれも東伸製作所の納品書(甲第一二九号証は昭和四〇年一月一四日付、甲第一三一号証は同年二月二〇日付)であるところ(ただし、甲第一三〇号証は別表六中に記載してない。)まず、甲第一三〇号証は作成日付がなく他にその作成日付を立証する証拠はない。次に、甲第一二九号証及び第一三一号証は金額の記載がないうえ、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第六一号証によれば、昭和三九年の四月から五月にかけては原告が同製作場に原材料を供給していたことが認められるので、右各号証の作成時においても原告が原材料を供給していた疑いが濃く、その金額を算出することは困難である。したがって、これらは外注費算出の資料とすることはできない。

(3) 前掲甲第六一号証(昭和三九年五月二〇日付請求書、請求金額八、七五〇円)は、証人辰尾明吉の証言により成立の認められる乙(イ)第二九号証により前月分の未回収代金六、二五〇円(甲第六〇号証)が重複請求されていることが認められ、同じく原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一三五号証は、その記載及び証人伊藤忠の証言(第二回)により成立の認められる乙(ロ)第一二号証により前々月分及び前月分の未回収代金四万六、三九一円が重複請求されていることが認められるから、それぞれ当該月分の外注費請求金額は、右未回収代金分を控除した二、五〇〇円及び四万五、七九一円と認めるのが相当である。

(4) <1>甲第四六号証と甲第二三七号証の一二、一四、乙(イ)第二五号証、<2>甲第八七号証と甲第二四九号証の二、乙(イ)第一一号証、<3>甲第一〇五号証と甲第二四三号証の三、乙(イ)第二五号証、<4>甲第一一六号証と甲第二四七号証の六、乙(イ)第二五号証、<5>甲第一三八号証と前掲乙(ロ)第一二号証、<6>甲第一九三号証、第二四四号証の八と乙(イ)第二五号証、<7>甲第二三二号証と甲第二四八号証の二二、乙(ハ)第一六号証(甲第八七号証、第一〇五号証、第一三八号証、第二三二号証、第二四三号証の三については原告本人尋問の結果(第一回)により成立が認められ、その余の甲号各証については成立に争いがない。また、乙(イ)第一一号証、乙(ハ)第一六号証については証人伊藤忠(第二回)の、乙(イ)第二五号証については同庄子実の各証言により成立が認められる。)は、いずれも右各号証記載の金額が一致しないものの、右<1>及び<3>ないし<7>については時期が近接していることから同一取引に係るものと推認され、また、右<2>についても、右各号証、原本の存在及び成立に争いのない乙(イ)第三一号証の一、二及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、昭和工芸社、山崎敬止及び山崎美術工芸社は同一の者で、原告と同社との取引は一回であり、前記各号証は右取引に係るものであることが認められる。

そこで、検討するに、右の<1>及び<3>は領収書記載の金額よりも東京国税局長宛に京浜信用組合本店が作成した原告振出の小切手等の支払に関する回答書(乙(イ)第二五号証)記載の金額の方が多いが、前者に比し後者の方が支払に関してはより客観的な証拠というべきであるし、その信用性も高いものであるから、後者記載の金額を右取引に係る外注費と認めるのを相当とする。なお、<6>についても本来は右と同様であるが、乙(イ)第二五号証に書き直した跡(55,703→55,203)がうかがわれるため、<6>に限り領収書記載の金額(五万五、七〇三円)を右取引に係る外注費と認める。次に、右の<2>、<4>、<5>、<7>はいずれも請求書又は領収書記載の金額よりも、右京浜信用組合本店作成の回答書又は大森税務署長宛に原告の取引先が作成した原告に対する売上金額に関する回答書(乙(イ)第一一号証、乙(ロ)第一二号証)記載の金額の方が少ないが、請求書又は領収書作成の後に減額された疑いもあるため、後者記載の金額を右取引に係る外注費と認めるのを相当とする。

(四)  金型の取得費について

被告は、原告が主張する外注費のうち一部のものは減価償却資産である金型の取得価額又は右資産の修繕費に該当するものであるところ、減価償却費は一般経費に包含されるものであるから外注費にはならない旨主張する。

原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第八〇号証、同尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第二六七号証の四、第二七四号証の三ないし五、第二八〇号証の二、第二八一号証の三、第二八二号証の二、第二九六号証、第三〇四、第三〇五号証の各二、第三一三号証、第三一四号証、証人前崎善朗の証言により成立の認められる乙(イ)第二号証、同伊藤忠の証言(第二回)により成立の認められる乙(ロ)第五号証、第九号証、乙(ハ)第五号証、第七号証及び原告本人尋問の結果(第二回)によれば、次の事実を認めることができる。

原告がプラスチック成型加工の注文を受ける際には、ほとんどの場合右加工に必要な金型の製造、修理、改造をすることも含まれていた。そこで、原告は、右金型の製造等を金型業者に発注するが、その代金については、手数料を加算した額をプラスチック成型加工代金の一部として注文主に請求し、受領した金員をもって金型業者に支払うこととしていた。また、金型業者から納品された金型については、注文主の検査を受け、納品書等を提出したうえで右金型を借り受けてプラスチック成型加工を行い、加工が終了すると注文主の指示に従い廃棄したり注文主に返還したりしていた。そうすると、右金型は結局注文主の所有に属するものと推認される。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告の前記主張は、金型が原告所有の減価償却資産であるとする前提を欠くこととなるから失当といわなければならない。

また、被告は、預り金をもって支払ったものにすぎないならば経費性はない旨主張するが、前掲各証拠及び被告の主張によれば、被告は金型の製造等に係る代金も売上金額に含めて計上していることは明らかであるから、その反対支出も何らかの経費として認めなければならないことは明らかであり(なお、これは一般経費に含まれるものではない。)、便宜外注費の中に含めて計算することも許容されないわけではないというべきである。

(五)  別表六の1ないし3中証拠欄記載の書証(ただし、同表中請求、納品又は支払欄に×印又は△印をつけたものに対応する証拠及び金型代外注費追加分欄記載の証拠を除く。右証拠のうち、甲号証については原告本人尋問の結果(第一回)により成立が認められ(一部当事者間に成立に争いがないものが含まれる。)、乙(ハ)第一六号証、第一七号証については証人伊藤忠の証言(第二回)により成立が認められる。)、証人辰尾明吉の証言により成立の認められる乙(イ)第三〇号証、第三六号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、本件係争各年分の外注費として別表六の1ないし3中請求欄記載のとおり請求を受け、また、同表支払欄記載のとおり支払ったものであるところ(ただし、いずれも×印及び△印をつけたもの並びに金型代外注費追加分欄記載のものを除く。)、そのうち↓印をつけたものは請求と支払が対応しており、さらに※印をつけたものは、値引きその他の事情により減額して支払われたと推認されるものあるいは支払金額の中に請求金額が含まれている可能性が濃いものであるから、これらについては支払欄記載の金額を原告の外注費と認めるのが相当である。また、*印をつけたものは支払金額がいずれも一、〇〇〇円単位で請求金額を切り上げたり、切り下げたり増減を調節したりあるいは請求金額を合計したりしているとも推認されるものもあるから、これらについては請求欄記載の金額を原告の外注費と認めるのが相当である。なお、有限会社三栄製作所と有田製作所(有田S、S、)は同一の者であると推認するを相当とする。

以上のとおり認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、被告は、請求書記載の金額が必ずしも実際に支払われた金額にはならない旨主張するが、右認定によれば、値引き等が一般的に行われていたと認めることはできないし、領収書等と全く対応していない請求書は前掲甲第四五号証及び第七六号証のみであるところ、これらについて未回収代金が重複請求されているとの事実はうかがわれないから、被告の右主張は失当である。

(六)  金型代外注費追加分について

(1) 甲第三〇三号証の三、第三〇六、第三〇七号証の各二、第三〇八、第三〇九号証、第三一一号証の二はいずれも原告作成に係る請求書又は納品書であるところ、右のうち甲第三〇六、第三〇七、第三一一号証の各二は、その請求金額が前掲乙(ハ)第五号証、証人前崎善朗の証言により成立の認められる乙(ハ)第三号証、同伊藤忠の証言(第二回)により成立の認められる乙(ハ)第九号証(いずれも東京国税局長又は大森税務署長宛に原告の当該取引先が作成した原告からの仕入金額に関する回答書)記載の仕入金額と相違しており、その記載の正確性に疑問がある。そして、前記各号証のうちその他の証拠は、請求書又は納品書に係る何らの裏付けもないので、これらの正確性にも疑問があるといわざるを得ない。そうすると、前記各号証は外注費算出の資料とすることはできないといわなければならない。

(2) 前掲甲第三〇四、第三〇五号証の各二、乙(ロ)第五号証、乙(ハ)第五号証、原告本人尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第三〇三号証の二、第三一〇号証、証人庄子実の証言により成立の認められる乙(イ)第二二号証及び原告本人尋問の結果(第二回)によれば、原告は甲第三〇三ないし第三〇五号証の各二、第三一〇号証記載の金型代を当該取引先に請求したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、右金型代に相当すると推認される金型業者への支払に関する証拠は存しないのであるが、前記認定の外注費以外に右金型代に相当する外注費があったものと推認するのを相当とする。

(3) そこで、右金型代に相当する外注費について検討するに、原告本人尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第二九〇、第二九一号証、第三〇一、第三〇二号証及び同尋問の結果(第二回)によれば、原告が取得していた手数料の割合は必ずしも一定ではなく取引毎に高低差があるが、有限会社山田製作所から納品された二つの金型(「PM―112E スライダー金型」と「PM―112E スイッチ基台金型」)を昭和四一年一二月二四日富士電波工業株式会社に納品するに際し同日納品に係る右二つの金型を合算すると約三七・二パーセントの手数料を請求していたことが認められ、右割合以上に手数料を請求していたことを認めるに足りる証拠はない。右認定によれば、原告が取得していた手数料の額は多くても四割を超えているものではないと推認されるから、少なくとも金型代に手数料を四割として計算した金額に相当する額の外注費があったものと認めるのが相当である。そして、右計算を行った結果は、別表六の1ないし3中金型代外注費追加分計欄記載のとおりである(小数点以下四捨五入)。

(七)  以上によれば、原告の本件係争各年分の外注費の金額は、別表三の1番号1ないし5及び同表の2番号1並びに別表六の1ないし3中計欄記載のとおりであり、それらを合計すると、昭和三九年分については五六万二、九六二円、同四〇年分については一六六万一、九三〇円、同四一年分については二九六万七、一四八円と認められる。

5  雇人費について

(一)  原告は、本件ノート等を証拠として提出し、実額(一部本件ノート欠落部分につき推計)を主張している。

被告主張のように、売上高に同業者の雇人費率を乗じて雇人費を算出するという間接的な方法は、実額計算をなし得る場合又はより直接的な方法を採り得る場合には採り得ないというべきであるところ、被告の主張に比し、原告の主張の方がより直接的な認定方法というべきであるから、まず原告の主張について検討する。

(二)  そこでまず原告が証拠として提出している本件ノート等の信ぴょう性について判断する。

(1) 原告本人尋問の結果(第一、二回)により成立の認められる甲第二六一号証、第二六二号証、第三一五号証、証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、甲第三一五号証は本件係争各年分当時の原告の常傭の従業員に係る出勤簿(以下「本件出勤簿」という。)の一部であり、各従業員別に出欠勤等の印が押捺され、残業時間等が記載されているところ、出欠勤等の印は原告の従業員である向田守がその都度押捺していたものであること、本件ノート(甲第二六一号証、第二六二号証)は、昭和三九年五月から同四〇年九月までと昭和四一年三月から同年一二月までに係る常傭の従業員に対する給料計算の目的で原告が作成したメモ帳(なお、本件係争各年分のうち、その余の月に係るメモ帳は紛失のため欠落している。)であるところ、これを見ると、出勤簿の記載を基に、従業員各人毎の出勤日数、欠勤日数、残業時間及び早退回数を記載し、各人毎の日給賃金額及び残業一時間当たりの賃金額を乗じて本給及び残業手当を算出し、皆勤手当、職責手当を加算して総支給額を算出し、これから所得税、貯金、食費等を控除して現実の支給額を算出している旨の記載があること、そして、本件ノートは右のとおり出勤簿の記載を基に計算していたところ、本件出勤簿における従業員各自の出欠勤の日数及び残業時間数等の記載を本件ノートの記載と比較対照させてみると、右出勤簿の<19>ないし<30>(上欄外記載の番号、以下同じ。)が昭和四〇年七月から一二月分に、<1>ないし<18>及び<31>ないし<40>が昭和四一年一月から一二月分に該当し、両記載が一致することが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。以上によれば、他にこれを覆すに足りる証拠のない限り本件ノート及び本件出勤簿は雇人認定の用に供し得る証拠というべきである。

なお、証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第二回)によれば、原告は常傭の従業員に対する給料の支払については領収書を受領していないのに、臨時従業員に対する支払については領収書を受領していたのであるが、それはその支払が原告の従業員である向田守を介して行われたことがあり、支払の証拠として領収書を受領した等の事情によることが認められるから、右のような事実があるからといって前記認定を左右するものではない。

また、本件ノートによると、一般に従業員各人毎の日給賃金額及び残業一時間当たりの賃金額は昇給を繰り返しているところ、日給賃金については、向田守及び櫛田とく子が昇給の後降給(五ないし八パーセント)しており、残業一時間当たりの賃金額についても向田守、斉藤鎮夫、熊谷重雄、熊谷敏雄及び櫛田とく子は一時降給(向田及び櫛田は五ないし一〇パーセントで他は一パーセント以下)している旨の記載があることが認められるが、原告のような給与規定もはっきりしない零細企業においてこのような昇降給があっても極めて不自然という程ではない。また、証人向田守の証言中には、給料計算の内訳明細書はあったが、給料の単価が下がったことはなく、職責手当の支給や貯金の天引については記憶がない旨の部分があるが、右証言は本件係争各年分当時から約一五年も経過した後にされていること及び本件ノートの記載状況などに照らし、採用することができない。

(2) 原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第二六三号証の一ないし三六、証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、右各号証はいずれも原告が臨時従業員に対して支払った賃金に係る領収書である(以下「本件領収書」という。)ことが認められる。

しかしながら、本件領収書のうち、甲第二六三号証の一、三、七、一三、一四、二二及び二四は、作成年の記載がなく、かつ、他の証拠により作成年月日が立証されていないから、雇人費算出の資料とはなし得ない(なお、甲第二六三号証の二についても作成年の記載はないが、前掲甲第二六一号証及び第二六三号証の八によれば昭和四〇年八月作成に係るものと認めることができる。)。また、甲第二六三号証の三五(作成者秋山弘、作成日付昭和四一年一一月二日、領収金額二、六四八円)も、作成日付に書き換えの跡がうかがわれること(10月1日を11月2日に)、同年一〇月三一日付の領収書(甲第二六三号証の三三)の但書欄に「10月1日2,648―」との記載があること、秋山弘作成名義の他の領収書(甲第二六三号証の三二ないし三四、三六)がすべて印紙を貼用しているのに、右領収書のみ印紙が貼用されていないことに照らし、仮領収書ではないかとの疑いがあるから、雇人費算出の資料とはなし得ないものである。

本件領収書のうち右以外のものにも、受取人の住所の記載や、姓だけで名前の記載がなかったり、印紙が貼用してなかったりするものが多くあるうえ、証人向田守は、本件領収書に係る臨時従業員のうち約半数については記憶がない旨証言し、原告本人尋問の結果(第一回)中にも、本件領収書にその記載がない臨時従業員については当時の住所や名前も分からないとの趣旨の部分が存在する。しかしながら、右のような記載上の不完全さがあるからといってただちに雇人費認定の用に供し得なくなるものといえないし、右各供述はいずれも本件係争各年分当時から10年以上も経過した後にされているのであるから、他に記憶を喚起し得る証拠でもない限り記憶が薄らいでいるのもやむを得ないというべきである。そうすると、他にこれらを覆すに足りる証拠のない限り、本件領収書のうち前記証拠を除くものは雇人算出の認定の用に供し得る証拠というべきである。

(3) 原告本人尋問の結果(第一回)により原本の存在及び成立の認められる甲第二五九号証及び第二六〇号証及び同尋問の結果(第一、二回)によれば、右各号証(本件明細表)は、本件ノート及び本件領収書に基づいて原告が本訴提起後作成したものであって、右資料の存しない部分は原告が推計に基づいて記載したことが認められる。

しかしながら、前記認定の事実及び本件出勤簿によれば、熊谷重雄は昭和四一年一二月二日に退社し、飯野富枝は昭和四〇年八月一〇日に入社し、昭和四一年二月二日退社、再び同年九月五日入社し、同年一一月二五日に退社していることが認められるにもかかわらず、本件明細表によれば、熊谷重雄を昭和四一年一二月も一箇月間雇傭し一二月分の賞与も支払っていた旨の、飯野富枝についても、昭和四〇年一〇月から昭和四一年二月までの間雇傭していなかった旨の、同年一二月には賞与を支払った旨の各記載がある。また、本件ノート及び証人向田守の証言によれば、昭和四〇年八月に一箇月だけ働いたのは向田和雄であって、向田博ではないことが認められるにもかかわらず、本件明細表には向田博と記載がある。さらに、昭和四一年七月分の賞与について、本件ノートにおいて右賞与の記載と推認される記載と異なる記載が本件明細表にあるなど、その記載の根拠が全く不明で、正確性についても疑問がある。したがって、本件明細表は全体として雇人費算出の資料とはなし得ないものである。

(三)  したがって、前掲甲第二六一号証、第二六二号証、第二六三号証の二、四ないし六、八ないし一二、一五ないし二一、二三、二五ないし三四、三六、第三一五号証、証人向田守の証言(後記採用しない部分は除く。)及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、別表七の1<2>、<3>、同表の2<1>及び同表の3<2>、<3>記載のとおり原告が従業員に対し雇人費を支払っていたことが認められ、証人向田守の証言中右認定に反する部分は採用しない。そして、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  次に、本件ノートが欠落している部分について検討する。

(1) 昭和四〇年一〇月から同四一年二月分まで及び同年一二月分について

本件出勤簿によれば、従業員各人別の出欠勤の日数、残業時間数及び早退等は別表八の1ないし6の各<1>ないし<4>記載のとおりと認められる。そして、本件ノートによれば、昭和四〇年九月、同四一年三月及び同年一一月の従業員各人別の日給賃金額及び残業一時間当たりの賃金額は別表八の7記載のとおりと認められるから、昭和四〇年一〇月から同四一年二月分までは、少なくとも同四〇年九月と同四一年三月の単位給のいずれかより低額な金額により、同年一二月分は、同年一一月の金額により計算した額が支払われていたものと推認するのが相当であるから(なお、本件ノートによれば皆勤手当及び職責手当については増減がないので、それぞれ一、〇〇〇円、二、〇〇〇円と認めるのを相当とする。)、右金額により計算すると別表八の1ないし6の各<5>ないし<9>記載のとおりとなる(小数点以下四捨五入)。したがって、前記期間の雇人費は、別表七の2<2>、同表の3<1>記載のとおりであると認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 昭和三九年一月ないし四月分について

証人前崎善朗の証言により成立の認められる乙(イ)第三号証、同一戸潔の証言により成立の認められる乙(イ)第六号証、同伊藤忠の証言(第二回)により成立の認められる乙(イ)第五号証、第九号証、証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告の事業は昭和三九年も年間を通して行われていたことが認められる。そして、右各証、前記認定による同年五月以降の給料の支払状況及び弁論の全趣旨によれば、向田守、斉藤鎮夫、熊谷重雄及び斉藤しづの四名が右期間勤務していたと推認するのが相当であり、以下のとおり計算した金額の雇人費を認めるのが相当である。

〔算式〕

※昭和39年5月から12月分の給料合計額 月平均給料額 昭和39年1月から4月分までの給料推計額

向田守(189,495÷8)×4≒23,687×4=94,748(円)

斉藤鎮夫(126,250÷8)×4≒15,781×4=63,124(円)

斉藤しづ(50,000÷4)×4=12,500×4=50,000(円)

熊谷重雄(132,325÷8)×4≒16,541×4=66,164(円)

※ 斉藤しづについては昭和39年5月から8月分の給料合計額

(3) 賞与について

原告は、昭和三九年の夏及び同四〇年の夏にも賞与を支給した旨主張し、本件明細表、証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)中には右主張にそう部分も存するが、本件ノートにその旨の記載がないことに照らしいずれも採用することはできない(本件明細表が認定の用に供し得ないことは前述のとおりである。)。

次に、昭和四〇年一二月期及び同四一年一二月期について検討するに、前記認定のとおり原告は昭和三九年一二月に賞与を支給していること並びに証人向田守の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告は本件係争各年分当時毎年暮に常傭の従業員に対し賞与を支給しており、昭和四〇年一二月期には向田守、斉藤鎮夫、熊谷重雄、櫛田とく子及び藤井亀男に対して支給があり(なお、飯野富枝については、前記認定のとおり昭和四一年七月期において、同年三月三〇日に入社した益子定夫に賞与が支払われていないことに照らし、支給があったと認めることはできない。)、昭和四一年一二月期には、向田守、斉藤鎮夫、藤井亀男、櫛田とく子及び益子定夫に対して支給があったと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで、右賞与については、証人向田守の証言中に賞与は給料の約一箇月分であったとの趣旨の部分があるが、昭和三九年一二月期及び同四一年七月期の賞与額に照らすと、これをただちに採用することはできない。しかしながら、前記認定による給料の支払状況及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも昭和四〇年一二月期又は同四一年一二月期の賞与は昭和三九年一二月期又は同四一年七月期の賞与を、昭和四〇年一二月期の藤井亀男の賞与は同期の櫛田とく子の賞与を、昭和四一年一二月期の益子定夫の賞与は五〇〇円(同額を超えて認定すると、同人が支払を受けた合計額が原告主張額を超えることとなる。)をそれぞれ下回ることはないと推認されるので、それぞれ右各金額を当該期の賞与と認めるのを相当とする。

(五)  以上を総合すると、原告の本件係争各年分の雇人費として別表七の1ないし3合計欄記載の金額を認めることができる。ただし、昭和三九年分の荒木、同四〇、四一年分の飯野富枝についてはいずれも原告主張額を上回っているので、原告主張どおりに認容することとする。

また、以上によれば、昭和四一年分の雇人費については原告が被告主張の二一〇万三、七一八円を超えて支出したと認めるべき資料はないから、結局同年分の雇人費については、右二一〇万三、七一八円と認めるのが相当である。

6  家賃について

成立に争いのない乙(イ)第三四号証、原告本人尋問の結果(第一回)により成立を認めうる甲第二三三号証、第二三四号証、第二六五号証及び同本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告は、鳴島勉から昭和三九年三月一日、本件建物(東京都大田区大森八丁目五〇四七番地、木造瓦葺二階建工場兼居宅)を次の約定で賃借した。

(一)  賃料 一箇月五万五、〇〇〇円

(二)  契約期間 三年

(三)  礼金 四万五、〇〇〇円

(四)  敷金 三一万七、五〇〇円

(五)  特約 期間更新の際敷金の三〇パーセントを償却する。

また、原告は右賃借に際し澤田不動産に対し仲介手数料として五万五、〇〇〇円を支払った。

ところで、本件建物は一、二階共にその床面積は約一三坪であり、一階は工場、二階は六畳の部屋が二室と四畳半の部屋が一室あって、原告は一階の全部と二階の四畳半の部屋を事業用に供していた。

以上のとおり認められる。乙(イ)第三二号証は、本件建物の賃借に際し作成された建物賃貸借契約書で、賃料一箇月三万五、〇〇〇円などの記載があるが、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、前記契約書は、もう一通の建物賃貸借契約書である甲第二六四号証の外に家主の依頼で作成されたものであることが認められること並びに前掲甲第二三三号証、第二三四号証などに照らし、実際の賃貸借契約の内容を反映したものとは認められない。また、甲第二六四号証及び乙(イ)第三三号証は採用しない。そして、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、家賃が事業用分と住居分に金額的に区分されて定められていたことを認めるに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、本件建物の事業供用割合は、次のとおり六三・七パーセントとなる。

一階部分の事業供用面積 二階部分の事業供用面積

<省略>

また、澤田不動産に対して支払った仲介手数料は昭和三九年分の必要経費であり、礼金は繰延資産に当たるから支出の効果の及ぶ期間(三六箇月)を基礎としてその年に対応する部分の金額がその年分の必要経費となる。なお、敷金の償却費は、期間更新の際に初めて返還を要さなくなるもので、それまでは単なる預け金にすぎない趣旨のものと解されるから、昭和四二年分の必要経費と解すべきである。

したがって、本件係争各年分の家賃の額は次の算式で算出され(小数点以下四捨五入)、昭和三九年分は四一万三、三一三円、同四〇、四一年分は四二万九、九七五円となる。

昭和39年分(10箇月分)

家賃 礼金 事業供用割合 仲介手数料

<省略>

昭和40、41年分

家賃 礼金 事業供用割合

<省略>

貸倒損失について

原告は、昭和四一年中に四万六、二五〇円の貸倒損失があった旨主張し、甲第二六六号証及び原告本人尋問の結果(第一回)中には右主張にそう部分も存在するが、甲第二六六号証は、摘要欄に「オリエント不渡手形買モドシ」との記載がある小切手のミミにすぎず、他に帳簿等の記録は何もないのであるから、にわかに右供述等を採用することができない。したがって、この点に関する原告の主張は失当である。

8  原告の事業所得金額

右で認定したところから、原告の本件係争各年分の所得金額を算出すると、昭和三九年分は一〇六万〇、二八三円同四〇年分は八四万二、〇二四円、同四一年分は一八六万三、七四六円となる。

9  とうすると、本件各更正のうち、昭和三九年分については所得金額一〇六万〇、二八三円を超える部分、同四〇年分については所得金額八四万二、〇二四円を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件各決定のうち、昭和三九年分及び同四〇年分については右各所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

九  結論

以上によれば、原告の本件各請求は、本件各更正及び本件各決定のうち、昭和三九年分については所得金額一〇六万〇、二八三円を超える部分、同四〇年分については所得金額八四万二、〇二四円を超える部分の各取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 揖斐潔 裁判官原健三郎は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 藤田耕三)

別表一の1 (昭和三九年分)

<省略>

別表一の2 (昭和四〇年分)

<省略>

別表一の3 (昭和四一年分)

<省略>

別表二の1 (昭和三九年分)

<省略>

別表二の2 (昭和四〇年分)

<省略>

別表二の3 (昭和四一年分)

<省略>

別表三の1 (昭和三九年分)

<省略>

別表三の2 (昭和四〇年分)

<省略>

別表三の3 (昭和四一年分)

<省略>

別表四の1 (昭和三九年分)

<省略>

雇人費率(の合計÷の合計 二二・三六%)

別表四の2 (昭和四〇年分)

<省略>

雇人費率(の合計÷の合計 二一・四一%)

別表四の3 (昭和四一年分)

<省略>

雇人費率(の合計÷の合計 二一・一六%)

別紙五の1 (昭和三九年分)

<省略>

別紙五の2 (昭和四〇年分)

<省略>

別紙五の3 (昭和四一年分)

<省略>

別表六の1 (昭和39年分)

<省略>

<省略>

注<1> 証拠欄に単に数字の記載があるものは甲号証(例えば40とは甲第40号証である。)、○で囲ってあるものは乙号証(イ25とは乙(イ)第25号証である。)である。

<2> 請求と支払の両者が存する場合の証拠欄の記載は、斜線の上が請求に対応し、下が支払に対応する。また、2以上の請求又は支払が存する場合の証拠欄の記載は、請求又は支払欄のうち上に記載したものと証拠欄の左に記載したものが対応し、下に記載したものと右に記載したものとが対応する。

<3> 1つの請求又は支払に対し証拠欄に複数の記載がある場合は、1つの請求又は支払に対し複数の証拠があることを示す。

(別表六の2及び3の記載も同じ要領である。)

別表六の2 (昭和40年分)

<省略>

<省略>

注は 納品

別表六の3 (昭和41年分)

<省略>

<省略>

別表七の1 (昭和三九年分)

<省略>

別表七の2 (昭和四〇年分)

<省略>

※ 久保以下の臨時従業員については一〇月から一二月分を含む。

別表七の3 (昭和四一年分)

<省略>

※ 溝上以下の臨時従業員については一月、二月、一二月分も含む。

別表八の3 (昭和四〇年一二月分)

<省略>

別表八の4 (昭和四一年一月分)

<省略>

別表八の5 (昭和四一年二月分)

<省略>

別表八の6 (昭和四一年一二月分)

<省略>

別表八の7

<省略>

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